4年生の卒業研究は12月までに終了し、年が明けた1月からは新卒論生として3年生が研究室に配属される。国家試験を控えた4年生は、図書館、栄養学科2階の自習室、自宅などで勉強に勤しむことになる。S講師の部屋の前に2つの机がある。通常は誰も使用していない空きの状態であるが、ある時は人生再生の場として、またある時は国家試験勉強の場として使用される。
2つの机が国家試験用の勉強の場として使われ始めたのは2年前から。「私たち(成績が)底ですよね」と言いながら、空いている机で勉強をさせて欲しいとOさんが言ってきた。かなり以前に就職先が決まり他の学生より時間があるにも関わらず、何故か模試の成績はずっと芳しくない。国家試験目前になって少しは危機感をもったのか、環境を変えることにより意欲をポジティブに向かわせる行動変容だったのかもしれない。Oさんに加えKさんも一緒に勉強することになった。
それ以来、昨年はTさんとSさん、今年はTさん、Oさん、T君と続く。一つだけいえることは以前の成績に関わらず、この場で学んだ者の国家試験合格率は100%であること。
昨年は、コロナ禍の中、COVID-19感染症と栄養に関する講演や書き物に勤しんだ。日本でも今月末よりCOVID-19に対するワクチン接種が始まるとメディアが伝えられている。インフルエンザワクチンと栄養状態との関連を調べた研究によると、血清アルブミンレベルが3.5g/dl未満の栄養状態の悪い高齢者はワクチンを接種してもワクチンに応答して抗体を作る人は半減することが(大分以前に)報告されている(Am J Clin Nutr, 66:478S, 1997)。今回のCOVID-19に対するワクチンは一部mRNAなどの初の核酸ワクチンである。核酸ワクチンによる免疫誘導に栄養状態はどのように影響するのか?実は以前にDNAワクチンによる免疫誘導に対するタンパク欠乏の影響を調べて報告している。抗原に特異的なT細胞応答は減弱するが、抗体産生に関してはさほど影響を及ぼさないという結果だった(J Nutr Sci Vitaminol, 52:376, 2006)。Mさんの修士論文だったが、修士論文発表会では「普通のワクチンの場合と結果は同じか!」と惨評された。COVID-19ワクチンがはたして高齢者に有効かという問題は公衆衛生上とても重要な問題である。もしかして以前の報告した論文が引用されはじめているのか(密かに)Scopusで調べてみた。まだ認識されるまで時間がかかるようだ。
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