最先端研究探訪(とくtalk193号)

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VRやAR、AIやロボットなど、最新機器もフル活用唯一無二! 臨床心理情報学の魅力

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「AR阿波踊り」はぜひ動画でチェック!2:50あたりから見事なでオタ芸を披露しているのは山本先生ご自身です。
https://youtu.be/QBoqY_3tmbg?si=WB15qAd0Zx2nz992

心理情報学という新しい概念を臨床応用したオリジナルの研究

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徳島大学で心理学を学ぶメリットについて、多種多様な専門分野
をもつ臨床心理学の先生が在籍し、いろいろな観点の領域を学ぶ
ことができることに加え、臨床心理士資格と国家資格の公認心理
師の2つの受験資格が取得できるところを挙げる山本先生。
「この2つの資格をとれるところは四国でも少なく、公認心理師
の5領域(医療、司法、産業、教育、福祉)を学ぶことができる
のも大きなメリット」といいます。

 「臨床心理情報学」とは、ビッグデータを使って心の働きを明らかにする心理情報学を、臨床に活用しようと山本先生が名付けた独自の研究領域です。
 ビッグデータに加え、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、人工知能やウェアラブルデバイスなどの最先端の情報機器を積極的に用い、私たちの心の理解や予測、調整に役立てています。
 臨床心理情報学の面白さのひとつは、本人が自覚していない行動パターンをAI解析で浮き彫りにできるところ。
 例えば原因不明の片頭痛に悩む人にスマホのアプリなどで心拍や活動量、睡眠の質などを毎日測定してもらいます。人間の目で見てパターン分類できないデータも、AIを使うと自動的に意味のあるまとまりを作り出し、そのまとまりを点数で評価します。これを何度も繰り返し、一番高得点を得たものが、AIによって抽出されたその人の行動パターンです。
 それにより「頭痛があった日の前日は会合があり、日中も疲れを感じていた」など、頭痛が起こるパターンを把握することができます。
 しかし、会合があると毎回頭痛が起きるというわけではなく、「頭痛が起きなかった日」の行動を見ると「あたたかいお茶を飲んだ」、「起床時に体操した」など、本人が無意識に行っていることが、ストレスを緩和させていることが分かります。
 AIによって行動を分類し、可視化することで心の予測ができ、予防にも役立てることができます。

 

誰かのための行動が結果、自分の命を守る

 現在は新型コロナウイルスの感染拡大も落ち着いていますが、このパンデミックにより、自殺率が増加。コロナ鬱といった心身の不調を訴える人も増えました。
 山本先生は緊急事態宣言が出た1回目と2回目の約8000人のデータをもとに、どういう人が自殺願望を抱きやすいかをAIで分析。結果、孤独感が高く、人付き合いが少ない人にその傾向があると分かりました。
 そしてその後の4回目までの緊急事態宣言のデータもすべて使用して分析していくと、「人のためにマスクをつける」など利他的予防行動をする人は、死にたいと思うリスクがかなり少ないことも結果の一つとして示されました。
 「震災のときもそうですが、日本人はすごくボランティア精神があって、自分たちが困っても誰かを助けますよね? 人のために何かをしようと思うこと自体、素晴らしいことですが、ひいては人を助けることが自分を助けることにもつながっていたんだな、と。絶望感の中にあっても、自分はこうでありたいと決めて、動ける人は不安や絶望に打ち勝つ力がある人。その傾向がコロナでも出てるなと感じました」。
 コロナ禍、WHOに加盟する各国が精神疾患の状況を示す中で、日本では山本先生のチームがデータを解析。緊急事態宣言時には約18%が「治療を要する抑うつ状態」という異常事態だったことが示されました。

バーチャルアイドルと夢の競演「AR阿波踊り」

 今、力を入れている研究として紹介いただいたのが、AR阿波踊り。ARの技術を使って、花吹雪や花火など演出と組み合わせた阿波踊りを楽しむことができます。
 設備は透明なスクリーンと複数のプロジェクターというシンプルさ。それでいて踊り手とバーチャルアイドルが同時に同じ空間で踊っているように見える不思議な体験が可能です。
 「映像を後ろから投影するので、普通なら人間が影になって演出効果が途切れてしまうはずですが、僕らはひと工夫、ふた工夫して、人間にもバーチャルアイドルにも同じように桜が降り注いで見えるようにしています」。
 こうした演出技術も含め、すべての研究に「ネガティブなものは軽く、ポジティブなものはもっと大きくしたい」という山本先生の思いが貫かれています。
 「落ち込みやすかったり、不安になりやすいといった心の弱さ、つまり人間の脆弱性を何とかしたくて、これまでずっと脳波を測ったり、MRIを使った研究していました。ビッグデータや最新の技術を活用することで生きづらさを解消できるだけでなく、むしろ、健康な人がよりよく生活できたり、これまでできなかったことが実現可能になることも期待されます。
 VRもやって、ロボットもやって、AIもやって、アプリもやって、『臨床心理学の中でも異端』と言われていますが、臨床心理学で情報通信技術と人工知能技術を使った研究ができるのは日本でもここだけではないでしょうか。稀有な研究室だと思います」。

山本先生の研究PICK UP

自分を癒すVRを使ったセルフカウンセリング

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 本人と悩みを聞いてほしい人(家族や恋人、親友など)のアバターを作成し、悩みを抱える人がVR空間で視点を入れ替えながらそれぞれの立場で話をする ことで、親しい人と対話しているような感覚になり、悩みが軽減されるという手法。

 

空間マッピングバイオフィードバック

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 特殊なミラーを使い、それに光をあてることで、空間全体が映像に包まれるシステム。皮膚電位を使い、気持ちが落ち着けば落ち着くほど、雪景色から春の景色へと変化し、より心地よい状態へと移り変わっていきます。風景の変化で自分の気持ちを可視化し、楽しみながら自分を落ち着かせる方法を学べます(本学の内海千種先生、伊藤園中央研究所との共同研究)。

 

ロボットでゲーム依存を解消!?

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 スマホやゲーム依存の減らすため、ロボットを活用した実験も。被験者がパソコンに集中し、パペットロボットを無視していると、どんどん拗ねて、最後には被験者に怒りを示す機能もあるのだとか。「アバターと違ってロボットは実体があるので、気持ちを投影しやすい。ロボットに撫でてもらいながら悩みを話すとネガティブ感情が軽減するといった効果もあります」。(本学の横谷謙次先生、ATRの高橋英之先生との共同研究)。

 

山本 哲也(やまもと てつや)のプロフィール

山本哲也
総合科学部 准教授

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