災害時、多くの命を守れるよう避難訓練をICTで強化
VR、メタバースで行う新しい避難訓練
「VR避難訓練のいいところは繰り返し、様々なシチュエーション
を体験できること。『別の避難行動をとるべきだった』、『普段
から○○しておこう』といったことに気付くきっかけになります」
という光原先生。
ゲームなどですっかり身近になったVR(VirtualReality)。VRゴーグルという専用の機器を頭に装着することで、多人数がコンピュータの中に構築された三次元の仮想空間(メタバース)をリアルに体験することができます。
光原先生は、このVRやメタバースを災害時の避難訓練に活用する研究を行っています。
「メタバースは一般的に自分にとっての理想的な場所(ユートピア)であり、居心地のいい空間。みんなでワイワイ楽しく過ごしているところに災害が起こったら『人間はどんな風に行動するだろう?』という点に興味があり、メタバース内を災害の状況に一変させ、そこでの行動を科学的に分析し、現実世界の防災に役立てたいと考えています」。
メタバースでの行動をデータ化防災に役立てる
研究室メンバー(上)とアバターの集合写真(取材時に不在だった学生
も一緒に)。特徴をよく捉えています。
メタバースではランダムに災害を発生させることができますが、より自分事として体験できるよう、気象庁のデータをもとに日本各地で発生した強い地震をシステムが検知。それと連動してメタバースで同じ震度の地震をおこす実験を行っています。
メタバースで災害が起こると「避難する?しない」も含め、どう行動するかはそれぞれの自由。その行動データを蓄積して「大勢を追って避難しがちで、狭いところに人が殺到してしまう」といった傾向を把握し、現実世界の避難計画に活用します。メタバースでは学生たちが普段利用している常三島キャンパスを再現。建物の配置や机や椅子など、教室のレイアウトも同じです。さらに光原先生や研究室の学生のみなさんもアバターとなって活躍!「授業中、火災がおきたら」、「先生が負傷したら」など災害のシナリオも設定でき、実験後、自分たちの行動を客観的に分析します。「優しい先生は助けるけど、厳しい先生は助けない」など、実際の人間関係や心理学的な側面もデータに反映されるよう工夫しています。
「これまでもVRによる防災訓練や防災教育は行われていましたが、『今から訓練します』という告知のうえで実施されるので、『ちゃんとやらなくては』という意識が働いていたと思います。この実験では楽しんでいる状況下で不意に災害が起こるので、人間の本性が分かり、新しい知見を得られるのではないかと期待しています」
研究開始のきっかけは子どもたちへの思い
光原先生がこの研究を始めようと思ったのは、お子さんの誕生がきっかけだったそう。30年以内に約80%の確率で起こるといわれる南海トラフ巨大地震。「もし子どもが地震に遭遇しても、命を守れるようにしたい。命を守る避難訓練をICTで充実させよう」という思いが、研究の原動力になっています。
「その後、下の娘が生まれ、しばらくして東日本大震災がおきました。その時は海外出張中で、遠く離れた場所から震災の様子をニュースで見るだけで、何もできませんでした。この時も『親がいなくても、自分で命を守れるようになってほしい』とさらに強く思い、研究に力が入りました」。
光原先生は子ども達への防災教育推進を目指し、徳島県内の小中学校を中心にタブレット端末を使った避難訓練も実施してきました。また、シリアスな話題になりがちな防災を楽しみながら継続的に学んでもらいたいとの思いから、ポケモンGOに似た避難場所学習用モバイルアプリも試作しました。しかし、コロナ禍で対面での訓練実施が困難に。「このままでは避難訓練がなくなるかもしれない???」という危機感を抱き、VRで避難訓練ができるよう、精力的に研究を進めています。
地震や津波などの自然災害だけでなく、国際情勢、新型コロナウイルスのパンデミックなど学生たちは様々な不安要素に囲まれていますが、そうした暗い話題に飲み込まれることなく、「希望をもって学生生活を送って欲しい」という光原先生。「僕の好きな言葉にウォルト?ディズニーの『If you can dream it, you can do it.(夢見ることができれば、それは実現する)』があります。新入生もそういう前向きな姿勢で日々を過ごして欲しいと思います」。
(右)タブレット端末を使った避難訓練に参加する生徒さんたち。架空の災害状況を見て、どう行動するかを考えながら避難していきます。
光原 弘幸(みつはらひろゆき)のプロフィール
理工学部 准教授