4つの柱で進む補綴歯科治療の最先端研究
注目集まる再生医療
現在、神経機能解析、再生医療、顎口腔機能、金属アレルギーの4つを軸に、それぞれ研究が進んでいるという松香先生。ポスターを拝見しながら、それぞれどのような研究なのか、お話を伺いました。
● まずは再生医療について。
複合細胞シートという2つの細胞シートを併せて使うことで、損傷した骨だけでなく、周辺の粘膜や歯肉、骨膜など損傷組織の再生を目指すもので、マウスを使った実験では骨と歯周組織、歯周靭帯などは再生できたのだとか。また「再生歯ユニット」を使った実験では、歯を失ったところへ「再生歯ユニット」を移植すると、組織を再生できるという実験結果も出ているそう。実用化されるのはまだまだ先だそうですが、大きな期待のかかる研究です。
歯ぎしりを計測する世界で唯一、開発に成功した機器も!
● 次に顎口腔機能について。
松香先生の前任の坂東先生の時に、顎の動きを図る顎運動測定器開発に成功し、実用化。この機器により、夜、寝ている間の歯ぎしりの様子を調べることが可能に。これまで筋電図だけで推測していた歯ぎしりを、「横にギリギリしている」、「グッと噛みしめている」など、どのように噛み締めているのか、どのように顎が動いているかわかるようになったことで、夜中に息が止まる睡眠時無呼吸に関しても、その装置を使って無呼吸の計測もできるので、歯ぎしりとの関連などを調べています。
この研究は1980年代頃から行われていて、「坂東先生は歯科医師でありながら機械にも強かったため、3次元的に顎の動きを測定する機械の開発ができたのだと思います」と松香先生談。
研究室のメンバーは「博士号を日本で取得したい」という
海外からの留学生が多い。
ニッケルピアスは要注意金属アレルギーの研究
● そして金属アレルギーについて。
今でも歯科治療に使う金属で起こるアレルギー「歯科金属アレルギー」。そのメカニズムを調べる研究も行われています。
「例えばインプラント。インプラントに使用するチタンは安全だと言われてるんですけど、チタンもアレルギーが起こることがあります。歯科用のインプラントを入れたらアレルギーが起きて、そのインプラントを外したらアレルギーが治ったという人もいらっしゃいます。
あと金属アレルギーの原因となるのはピアスですね。ニッケルの入ったピアスは金属アレルギーをひき起こしやすいので、ヨーロッパでは禁止されてるんですが、日本ではまだ禁止されていないので、女性講師が中心になり『禁止しよう!』と強く動いています。そういうニッケルピアスから感作して、金属の詰め物が入ると発症するということはよくあります」。
慢性痛のメカニズムを知るため"痛み"を見える化
● 最後に松香先生の専門でもある「痛み」の研究、神経機能解析について。
歯の痛みや顎の痛みなど、頭痛も含め、顔の周りの痛みは総称して「口腔顔面痛」といい、6ヵ月以上痛みの続く慢性痛のメカニズムや治療法について研究をされているそうです。
「痛み」という感覚的なものを、どうやって研究しているのかというと、動物モデルの実験で「痛み」は見える化できるのだとか。「例えば傷をした時に触ると痛いじゃないですか。それと同じでラットも痛かったらすぐ逃げるんですよ。神経をちょっと縛ってその圧力を測定し、それを指標にしているので、痛みも目に見えるカタチで分かるんです」。
痛みのメカニズムを解明し、新しい薬の開発や、すでに販売されている薬の中で効果のあるものの探索を行うとのこと。
また、痛みの予防法については「痛みが長引かない、慢性化しないよう、心と体がいつも元気なのが一番」とアドバイス。とはいえコロナ禍で、これまでにないストレスで、歯の痛みを感じるといった人からの相談も増えたのでは?
「全国において、そういう相談はあるみたいですね。鬱状態になって病院にも行けず、定期的に見てもらっている先生もいなくて、余計に痛みが増しているという人もいるようです」。
不安や恐怖、気分の落ち込みなどは、痛みをさらに悪化させてしまうため、落ち着いて対処してほしいそうです。歯の健康、大切にしたいですね。
松香 芳三( まつか よしぞう)のプロフィール
大学院医歯薬学研究部歯学域 教授