最先端研究探訪(とくtalk179号 2020年4月号2)

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UV(紫外線)+αで殺菌力を向上させ、実用性の高い新しい殺菌手法を開発

UV-Cはあぶない光 殺菌紫外線の威力

白井昭博
白井先生。ポストLEDフォトニクス研究所の併任講師としても活動していて
研究所では深紫外線をはじめとする次世代の光を用いた研究も進んでいるそう。

白井先生が研究しているのは「光反応を利用した微生物制御」。紫外線と天然物などを併用することで、強い殺菌効果のある殺菌方法の開発です。農薬や抗菌剤など薬剤を使わず、光で殺菌するので、安全で安心な新たな殺菌技術として、食品や医療の分野から大きな期待が寄せられています。
紫外線は一番可視光に近い順にUV-A、UVーB、UV-Cの3つに分類され、UV-Aの殺菌力は最も弱く、UV-Cは殺菌紫外線ともいわれるほど高い殺菌効果があり、UV-Cを使えばバクテリア、カビもすぐ死滅するといいます。
しかしUV-Cは人に対して非常に毒性が強く、遺伝子に損傷、変異を起こすレベル。UV-Cを用いるとなると、作業者の安全確保が問題となります。また、水俣病条約の発効に伴い、従来の殺菌水銀ランプにかわる新紫外線LEDの開発が活発になってきていますが、その光源としての性能が弱く、電源から入ってきたエネルギーが100%光に変わるとした場合、UV-Cは4%くらいしか光にならず、残りは熱として逃げてしまうので、現状のLEDではかなり非効率という課題もありました。
そのためUV-Cではなく、人に対して低毒性で殺菌力の弱いUV-Aと、安全性の高い天然物や抗菌性の弱い物質を併用し、実用性の高い殺菌手法の構築を目指しています。


UV-A+フェルラ菌の殺菌効果はサルモネラ菌や大腸菌などにも
効果あり。低濃度低照射量で効果を発揮するので、加工食品の
殺菌やポストハーベストに活用すれば食中毒の予防や品質保持
などにも役立ちます。

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殺菌性の高い深紫外線LED(280nm)とブルーライト(405nm)の光を
ひとつの基盤に実装した装置。二つの波長を併用することで、より
高い殺菌性を得られるLEDの光のみを使った殺菌の研究。もともと
徳島特産の釡揚げしらすの販路拡大を目指し、徳島県立工業技術
センターおよびサン電子工業(株)と共同研究を行っているもの。

安心、安全、しかも省エネ。LEDを光源としたUV-A+αの殺菌

現在、光源は蛍光灯からLEDに変わりつつあります。そうしたLEDの開発において、UV-Aを含む近紫外線領域のLEDも発売されています。これを用い、UV-Aだけでなく、ブルーライト(405nmを放射ピークとする)を使って、同様に天然物と併用することで強い殺菌力が得られるかという実験も行われています。
「併用する天然物として、よく使っているのがフェルラさんという物質。植物の細胞壁に含まれている物質で、日本においては食品添加物として認可されています。化粧品の紫外線吸収剤としても利用されている安全性の高い物質です。これをUV-Aと併用すると、光酸化反応が起きて、過酸化水素ができます。それがさらに光分解を受けて、殺菌に関する強い活性種により殺菌ができるという仕組みです。フェルラ酸自体の抗菌性は非常に低く、殺菌というよりは、菌の増殖を抑える静菌効果くらいしかありません。
ブルーライトも光の毒性が低く、フェルラ酸を組み合わせることで非常に強い殺菌力が生まれます」。
LEDを光源とすることで省エネ効果もあり、医療分野では水虫菌などの微生物感染症の治療法として用いられる可能性があるといいます。

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実験の様子。釡揚げしらすをLEDで照射処理し、一般細菌数や
ブドウ球菌数を減少させる効果があり。釡揚げしらす以外にも
農作物の殺菌処理が期待される。

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農に貢献する土の殺菌、バイオマスを利用した試み

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学生と共に実験の成果を検証し、研究を深めていく作業を繰り返し、
安全性を保ちながら効果の高い殺菌手法へ練り上げていきます。

光を使った殺菌技術が私達の身近で作用するのは、やはり食品の分野。
「農作物は多くの場合、農薬を使って微生物制御をしているのですが、消費者の立場からすると、農薬はあまり使って欲しくないですよね。アメリカなどから輸入される農作物は、ポストハーベストといって、収穫後に薬剤を使って防腐処理を行なっていますが、これもUV+αの手法を使えば、残留毒性のない方法で防腐処理を付与することができます。」。
農作物もさることながら「土の殺菌も重要」と話す白井先生。
農作物を植える前に土を耕し、殺菌を行っているそうですが、その際に使用される揮発性の土壌消毒剤の臭いは、近隣住民や作業者に嫌がられているのだとか。作物が病気にかかり、腐ってしまうのは、土からの感染が原因の場合もあり、臭いを伴わないUV+αの殺菌法は、土の殺菌にも役立ちます。
「ただ実用化という点から考えると、今、実験に使っているフェルラ酸は25gあたり7000円と非常に高価。この価格では農業に使うのは無理なので、コーヒー粕などからフェノール酸を取り出し、同じように使えないかといった研究をはじめています」。
コーヒー粕以外にも農作物の廃棄物や杉など木質系のもの、稲わらなどといった未利用資源が光殺菌に役立つかどうかを検証していくのだとか。
これによりコストも安くなり、モノの無駄をなくして、循環も成り立つとなれば、一石二鳥。社会を好転させる新しい光の利用法が、殺菌のスタンダードになるかもしれません。

白井 昭博(しらい あきひろ)のプロフィール

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大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域

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