持続可能性社会の実現に貢献する”小さな羽根”の開発が可能にしたピコ水力発電
1kwの電気を作るピコ水力発電に着目
重光先生、この研究をはじめてすでに7?8年が経過しているそうで、
基礎研究にも5年を要しているのだとか
羽根が回転することでエネルギーを生み出す装置の研究を行う”流体機械研究分野”。水車や風車など、通称ターボ機械と言われるものが研究のターゲットです。
「大型の水車は高度経済成長期に普及し、各所に設置され、日本の基盤電力として使用されていますが、まだ開発が進んでいないのが10kw以下の小規模な水力発電。その中でも非常に小さいピコ水力発電に着目しています。ピコ水力発電は1kwという出力のもの。家庭用の太陽光発電が標準で4kwくらいなので、その1/4ぐらいの発電量の水力発電を対象にした研究を行っています」と話す重光先生。
従来1kwを発電しようとすると、幅が1mくらいの農業用水に大きな水車を設置する必要があるそうですが、省スペース、ローコストを目指し、配管内に直径60mmの小さな羽根を取り付けることで、500wくらい発電できるものを開発しようとしています。
研究室のみなさん。
実験データとして64.2%が出せるまでには、失敗作もたくさんあり、
学生が設計した羽根の数も合わせると100を超えているそうです。
直径60mmの配管に直接設置できる小型ハイドロタービン。
マウスと比べるとその小ささがよく分かります。
二重反転の特殊な羽根が高効率化を実現
発電した電力は充電も可能ですが、農業用水路に設置した場合、超獣害対策用の電気柵や殿堂農機具の電源としての利用も出来ます。最近ではドローンによる農薬散布やタブレットを使って生産管理を行うスマート農業の普及も進んでいるため、田畑の近くに電源があれば、生産効率を上げる新たな使い道も生まれそう。現在、実証試験に向け、水車の高性能化や安定運転などを対象にした研究が続いています。
「直径100mm以下の小さな水車の問題点は、効率が下がること。黒部ダムなどで使われている大型の水車は80~95%の効率で稼働していますが、小さなものはマックス50%。ほとんどが20?30%といった状況の中で、二重反転の特殊な羽根を開発し、研究室内の実験では64.2%という数字を出せるところまできました。羽根が2段になっていて、それぞれ反対方向へ回転することで、高効率かをある程度達成し、実用化のメドもたっています」。
持続可能な社会の実現やエコの観点から、これまでも小水力発電は注目されていましたが、1kw発電するために必要な装置は300万?400万円かかるとされ、コスト面でも大きな壁がありました。
「充電で設備費を回収しようとした場合、太陽光発電で買い取り金額が25万円くらいなので、30年くらいかかってしまいます。初期費用を150万?200万円に抑え、10年くらいのスパンで回収できるようになれば、実用性も高まるのではないかと考えています」。
特殊な羽根を使っているため、水車の羽根の中の流れをいかに
可視化するかが難しく、高性能なコンピューターであるワーク
ステーションを使い、流れを的確に把握し、羽根の設計を何度も
改善するというプロセスを積み重ねてきたそう。
小型ハイドロタービンの性能特性。
白が予測値で黒が実際の数値。ほぼ予測通りに結果が出ています。
真の実用化を目指しひとつひとつの課題と向き合う
企業の協力もあって実証実験へ向け、動きはじめていますが、実験の場所など、新たに直面する問題もあります。「実験の場所として望ましいのは中山間地域の簡易水道。山の傾斜を利用して、貯留槽から水を供給するようになっているのですが、その配管の先に水車を設置できるのが一番理想的です。でも現実には結構ハードルが高いので、簡易水道以外の農業用水で実証を行うとなると、今度は砂や葉っぱなどが入るという問題が出てきます。それを除去しながら水車にダメージがないよう、様々な障害に耐えうるようなシステムをどう作るかも課題です」。
配管に一度設置した羽根は取り付けたままの状態になるため、藻などが羽根に付着しないようにするのも悩みどころ。藻が付着すると発電効率が著しく悪化するので、羽根車内に藻が流入しないような方法も検討中だそうです。半年?1年かけた長期の強度試験なども視野に入れ、「恒常的に使えるものをしっかり作り、ピコ発電を普及させていきたい」という重光先生。
配管を通る水力を利用し、小さくて環境への負荷もほとんどない、なおかつローコストで長期運用を目指し、挑戦は続きます。
学内に作った実験装置。
重光 享(しげみつ とおる)のプロフィール
大学院社会産業理工学研究部 理工学域 准教授