先端酵素学研究所?疾患プロテオミクス研究分野 准教授 真板 宣夫
タンパク質結晶を簡単に作製する技術を開発
【研究グループ】
- 先端酵素学研究所?疾患プロテオミクス研究分野 真板 宣夫
【学術誌等への掲載状況】
Crystal structure determination of Ubiquitin by fusion to a protein that forms a highly porous crystal lattice
Nobuo Maita
Journal of the American Chemical Society, in press.
DOI:10.1021/jacs.8b07512
【研究の背景】
タンパク質の結晶構造解析では良質の結晶を作ることが必須ですが、最適な結晶化条件を見つけるためには数百もの条件を試す必要がある上、必ずしも結晶が得られるとは限りません。そのため結晶化が一番のボトルネックになっています。そこで、あらかじめ隙間の大きい結晶格子を作り、その隙間に構造解析したいタンパク質をうまく結合させることが出来れば、結晶化の困難が解消されます。この方法は低分子化合物においては"結晶スポンジ法" 注1)ですでに実現されていますが、分子量の大きなタンパク質ではこれまで成功していませんでした。
【結果の概要】
タンパク質で結晶スポンジ法を適用するにはタンパク質が入るのに充分な大きさの隙間をもつ結晶格子が必要です。また、出来た結晶格子内にタンパク質を効率よく結合させることも必要になります。そこで大きな隙間を持つ結晶格子を作るタンパク質に解析したい別のタンパク質を遺伝子工学手法で融合させたものを作れば、これらの条件を満たすことが出来ます。私が以前結晶構造解析を行ったR1ENは内径110?(11nm)の大きな孔のハニカム構造の結晶格子(図1)を作るので、R1ENに別のタンパク質を融合させれば孔の内部に配置され、結晶構造解析が出来ると考えました。この手法のテストケースとして、ユビキチン(分子量8500 Da)をR1ENのC末側に融合させてR1EN単独の場合と同じ結晶化条件で結晶化を試みました。最初は結晶が得られませんでしたが、R1ENだけの結晶を種にミクロシーディング注2)を行うとR1ENの結晶化条件と同じ条件でR1EN-ユビキチンの結晶が得られました。
この結晶をフォトンファクトリーおよびSPring-8でX線を照射し、最大1.7?のX線データを取得することが出来ました。さらにデータを処理し、新規にユビキチンの結晶構造を決定することが出来ました(図2)。ユビキチンの構造をこれまでに報告されているものと比較したところ、最大で0.53?の違いしかなく、この方法での構造解析が有用であることが示されました。
既存のタンパク質結晶の隙間に新たにタンパク質を導入することによる結晶構造解析に初めて成功しました。また、R1EN単独の場合と同じ結晶化条件で結晶が得られることから、結晶化条件検索の手間を省くことが可能となります。これにより今まで結晶化が困難だったタンパク質の結晶構造解析が進むことが期待されます。今後は解析可能なタンパク質の分子量の上限を上げること、この方法での新規構造のタンパク質の解析を目指して改良を行っていきたいと思います。
本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究)の外部資金支援を受けて行われました。
【用語解説】
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- 1.結晶スポンジ法
- 東京大学藤田誠教授らのグループによって開発された結晶化方法。金属有機構造体を用いて3次元格子結晶を作り、その隙間に低分子化合物を浸み込ませることで低分子化合物の結晶を作る方法。
- 2.ミクロシーディング
- 結晶の核が形成されにくい場合に、溶液に微結晶を混ぜて結晶を得られやすくする方法