ヒト遺伝子多型がキラーT細胞の産生に及ぼす影響を解明

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報告者

先端酵素学研究所 免疫系発生学分野 准教授 大東いずみ

 

研究タイトル

ヒト遺伝子多型がキラーT細胞の産生に及ぼす影響を解明

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 徳島大学先端酵素学研究所 免疫系発生学分野 髙濵洋介
  • 東京大学大学院薬学系研究科 村田茂穂
  • 東京大学大学院医科学研究科 徳永勝士
  • 東京都医学総合研究所 田中啓二
  • 京都大学大学院医学研究科 疾患ゲノム疫学 松田文彦
  • 京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学 濱崎洋子
  • 北海道大学大学院医学研究科 笠原正典
  • 名古屋市立大学 田中靖人
  • 国際医療研究センター 溝上雅史
  • インドネシアYARSI大学 Rika Yuliwulandari

 

【学術誌等への掲載状況】

A human PSMB11 variant affects thymoproteasome processing and CD8+ T cell production.Izumi Ohigashi, Yuki Ohte, Kazuya Setoh, Hiroshi Nakase, Akiko Maekawa, Hiroshi Kiyonari, Yoko Hamazaki, Miho Sekai, Tetsuo Sudo, Yasuharu Tabara, Hiromi Sawai, Yosuke Omae, Rika Yuliwulandari, Yasuhito Tanaka, Masashi Mizokami, Hiroshi Inoue, Masanori Kasahara, Nagahiro Minato, Katsushi Tokunaga, Keiji Tanaka, Fumihiko Matsuda, Shigeo Murata, Yousuke Takahama

JCI Insight 2017;2(10):e93664.

 

研究概要

【研究の背景】

免疫の司令塔であるTリンパ球は胸腺で産生され、ウイルスなどの病原体やがん細胞を認識し生体防御を担っています。Tリンパ球は胸腺で産生する過程で、病原体などを認識することができる細胞を選別するプロセスである「正の選択」を受け、機能的に有用なTリンパ球が産生されます。Tリンパ球の1種であるキラーT細胞の「正の選択」は、胸腺皮質上皮細胞で特異的に発現する胸腺プロテアソームを構成する分子であるPSMB11(β5t)が大きな役割を担っています。

遺伝子多型は遺伝子を構成するゲノムDNAの個体差であり、多くの遺伝子で多型が発見されています。遺伝子多型は、病気の原因になるものもあれば、生体には無害なものもあります。私たちはヒトゲノム解析から、PSMB11の49番目のアミノ酸がグリシンからセリンへと置換される1塩基多型(G49S多型)を検出しました。G49S多型を有するヒトの頻度は、アミノ酸置換を伴うPSMB11多型の中でも最も高く、特に日本や中国などの東アジア民族で多くみられる多型です。日本人では、おおよそ1千人に1人がこの多型をホモ接合で有すると見積もられます。しかし、このG49S多型がヒトの免疫機能に及ぼす影響については明らかになっていませんでした。

 

【研究の成果】

PSMB11は未熟タンパクとして合成され、49番目と50番目のアミノ酸間の切断を受け成熟タンパクになります。G49S多型を細胞株に発現させたところ、ヒトPSMB11タンパクの成熟に異常をきたすことが明らかになりました(図1)。ヒトPSMB11とマウスPSMB11はアミノ酸の相同性が高く、マウスPSMB11もG49S多型によりタンパクの成熟異常が生じます。そこで、G49S多型がキラーT細胞の産生に及ぼす影響を生体内で観察するために、G49S多型を導入したマウスを作製しました。胸腺皮質上皮細胞におけるPSMB11のタンパク発現は、G49S多型により低下しました。また、G49S多型をホモ接合体として有するマウスでは、胸腺や二次リンパ組織でのキラーT細胞の数がヘテロマウスや野生型マウスと比較して有意に低下し、キラーT細胞の産生がG49S多型により減少することが明らかになりました(図2)。一方、G49Sへテロマウスと野生型マウスとの間でキラーT細胞数に差はありませんでした。また、G49S多型がヒトの免疫機能に及ぼす影響について調査するために、共同研究において約10000人を対象とするコホート調査を実施しました。ゲノム解析から、G49S多型をヘテロ接合体として有するヒト559人、ホモ接合体として有するヒト5人を検出しました。現在までのところ、多型ではないヒト209名とG49S多型をヘテロ接合体として有するヒト12名の末梢血細胞の解析を実施し、マウスの結果と同様にG49S多型をヘテロ接合体で有するヒトのキラーT細胞数は多型ではないヒトと差がないことが明らかになりました(図3)。G49S多型ホモマウスではキラーT細胞の産生が低下していたことから、G49S多型をホモ接合体で有するヒトでも同様にキラーT細胞産生が低下していることが考えられます。

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今後の展望

G49S多型が胸腺でのキラーT細胞の産生に影響を及ぼすことが解明され、ヒトの健康増進と感染症などの免疫システムが関連する疾患の治療法開発につながることが期待されます。

また、G49S多型ホモマウスでは、キラーT細胞の産生が低下していたことから、G49S多型をホモで有するヒトでも同様にキラーT細胞産生が低下していることが考えられます。G49S多型を有するヒトを長期的に追跡調査することで、この多型がヒトの健康に及ぼす影響について明らかにできると期待されます。

 

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