大学院医歯薬学研究部 口腔顎顔面矯正学分野 講師 泰江章博
多数歯欠損症にかかわるMSX1遺伝子新規変異検出ならびにゲノム編集技術を用いたその疾患責任性のモデル動物での検証
【研究グループ】
- 徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔顎顔面矯正学分野 田中栄二
- 徳島大学大学院医歯薬学研究部 人類遺伝学分野 井本逸勢
- 徳島大学先端酵素学研究所 生体機能学分野 親泊政一
【学術誌等への掲載状況】
Novel human mutation and CRISPR/Cas genome-edited mice reveal the importance of C-terminal domain of MSX1 in tooth and palate development. Mitsui SN, Yasue A, Masuda K, Naruto T, Minegishi Y, Oyadomari S, Noji S, Imoto I, Tanaka E. Sci Rep. 2016 Dec 5;6:38398. doi: 10.1038/srep38398.
【研究の背景】
歯牙欠損症は頭蓋顎顔面領域における先天性疾患において、7~8%と非常に高頻度で、歯科領域においては齲蝕?歯周病に次ぐ臨床上多く遭遇する疾患であり、欠損が6歯以上に亘るいわゆる多数歯欠損症においては、口唇裂?口蓋裂同様、近年その矯正治療に健康保険が適用されるなど重要な疾患と位置付けられてきました。
多数歯欠損症は従来より原因遺伝子がいくつか同定されてきましたが、未だに原因遺伝子不明の歯牙欠損症を有する家系あるいは散発例は非常に多く、また、既知遺伝子であっても、その変異の疾患責任性はこれまで培養細胞系でのみしか検証されておらず、小規模家系での検出変異では、疾患責任性を有するのか、それとも単なる多型なのか真偽不明と言わざるをえない報告も見られるのが現状です。
【結果の概要】
本研究グループでは、多数歯欠損症を呈する家系より次世代シーケンサーを用いた解析から、歯牙欠損症に関連する遺伝子変異を複数見出し、公共データベース情報を用いた検証から既知遺伝子であるMSX1遺伝子のC末端領域に新規変異を検出しました(図1)。MSX1遺伝子は歯牙欠損症に関わる遺伝子として古くから同定されていたものの、C末端領域での変異の報告はほとんどなく、また、その疾患責任性は不明でした。そこで、近年発展著しいゲノム編集技術を用い、その疾患責任性を動物レベルで検証するため、相同領域を破壊したマウスを作製しました(図2)。その結果、変異マウスにのみ下顎切歯と後方臼歯の欠損ならびに口蓋の低形成を認めることで疾患責任性を証明しました(図3、4)。さらに、歯の発生停止ならびに口蓋裂を発症し、生後間もなく致死となる従来のMsx1遺伝子ノックアウトマウスと異なる表現型が得られたことも非常に興味深い現象であると言えます。
今回の結果より、様々な疾患における遺伝子変異検出で、小規模家系かつ動物実験での検証のないまま報告がなされて続けている現状に一定の歯止めをかけつつ、一方で正しい診断が行われることが期待できます。今後、研究グループでは、過去に報告されてきた真偽不明の遺伝子変異、ならびにこれまでほとんど培養細胞系でしか行われてこなかった機能領域の欠失アッセイを動物レベルでゲノム編集技術を用いて行っていく予定です。