空間分析とメディアアートのコラボで地域に貢献
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部屋に置かれた地域の立体模型地図。小型カメラを自分の住む地域に持って行くと、周囲のスクリーン(壁)にその模型が拡大で映し出され、同時に水が出現して、自分が水の中にいるような「津波の浸水深度を仮想的に体験する」プログラム。
今までのハザードマップに「バーチャルリアリティ(仮想体験)」の要素を組み入れた画期的なこの試みは、空間を科学的に分析する塚本先生と、情報機器を駆使するメディアアートの河原崎先生の異色のコンビによって創作されました。
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きっかけは塚本先生が本学に就任(2013年)した時に、3.11東日本大震災を機に、徳島をはじめ全国的に防災?減災の研究や地域活動が活発になっていたこと。
先生の専門はGIS(地理情報システム:Geographic InformationSystem)です。
GISは地理的な位置情報(空間データ)を総合的に管理?加工し、視覚化して高度な分析を行う技術で、平成7年の「阪神?淡路大震災」をきっかけに、政府レベルでの本格的な取組が始まりました。
しかし、紙の防災マップやモニター画面での2D?3D(立体)画像だけでは説得力や迫力に欠けると、思いついたのが、映像や立体物などを使った表現を操る河原崎先生の存在でした。
様々な分野で活躍する研究者が集まる本校の総合科学部ならではの発想でした。
声をかけられた河原崎先生も、「何らかの形で地域貢献に自分の研究を生かしたいと考えていたところでした」と、世代も同じ二人は意気投合して異色のタッグを組むことになりました。
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今回のシステムは「津波浸水深度の仮想体験装置」と名付けられました。もう少し詳しく紹介します。
今までの防災マップと言えば紙やテレビ?パソコンの画面、スクリーンの映像(映画)など、平面のものばかりでした。防災センターでは地震や風雨の疑似体験ができるものの、他の場所で簡単に体験というわけにはいきません。地震の体験装置をトラックに設置して移動できるものはありますが、洪水や津波の水位が体験できるというシステムはありませんでした。
二人の開発したシステムの大きな特長は、画像を投影するスクリーン(無地の白壁で可能)さえあればどこでも設置できることです。
塚本先生が、GIS情報に国土地理院が測量した地表と建物の高度を加えて3次元データを制作。河原崎先生は3D(粉末積層)プリンタで模型を製作。
会場では、色分けした徳島県の津波浸水想定マップを模型の表面上に投影、そこにマイクロスコープ(小型カメラ)を近づけると壁に模型の街が映し出されます。
苦労したのは予想される津波(水)を実際の高さで重ねることでした。これは水槽に水を入れて拡大することにしました。洪水?津波としてのリアリティは今後の課題でしょう。
仮想であれ、実物大の体験に威力があると感じるのは、防災マップでは危険度の少ない薄い色で示されている2、3メートルの浸水も、自分の身体と共に映し出されると倍近い高さがあり、たいへん危険であることが実感できることです。
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防災マップや訓練へのアドバイスなどの依頼も増えています。
例えば地域住民や子どもたちにGPS(衛星を使った位置情報システム)をもってもらい、避難の際の行動パターンをデータ化して役に立てることなどは、GISを専門とする塚本先生ならではの支援となります。
今後の目標として塚本先生は、
「もっと精度を高めて、さらに地域に貢献できるように研究を進めていきたいと思います」
河原崎先生は、
「リアルにすることも大事ですが、このシステムを誰でもより簡単に使えるように開発していきたいです」と語っています。
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- 大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス研究部
- 創生科学研究部門 准教授
- 大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス研究部
- 創生科学研究部門 准教授
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[取材] 162号(平成28年1月号より)