バイオマスのリファイナリーをめざして~生物資源の有効利用で地域を活性化~
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将来必ず枯渇するといわれている石油資源に代わるバイオマス(生物資源)の活用は、CO2濃度を増加させないこともあり、特に徳島県のように第一次産業が基幹となる地域の大きな期待を背負っています。
木材といえば、今までは建築資材から間伐材まで、木の素材を生かした直接的な利用が主でした。近年では紙のように折り曲げられる板なども開発されていますが、元々紙も木(パルプ)から作られていますから素材の生かし方は同じです。
ところが中村先生の研究は木材(間伐材)からプラスチックを生み出すというものです。これは木材に含まれるリグノセルロース (木材に含まれるリグニンとセルロースという物質が結合したもの)を原料にします。リグニンは木材だけでなく、竹や稲わらなどにも含まれていますが、従来は廃棄されていたものです。
このリグニンをプラスチックに変えるところが最先端となります。
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佐々木先生(後ろ中央)と
中村先生の研究室では講師の佐々木千鶴(ささきちづる)先生も、バイオマスを利用したユニークな研究を進めています。先生はこの研究室に来て初めてバイオマスの研究に出会ったそうです。
徳島の特産品の一つに梨があります。梨の木は剪定して枝を落とすのですが、佐々木先生はこの枝からアルブチンという天然の美白成分を効率的に抽出しようとしています。天然由来の化粧品の成分はきっと話題になるでしょう。
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セルロースを活性化してエタノールに変えるためには、使用する酵素が高価な上に効率が悪く実用的でありません。
中村先生は、セルロースをエタノール化する前の段階で、直接マテリアル(素材)として利用することを研究しています。つまりセルロースを石油の代替となるバイオエタノールにするだけでなく、プラスチックなどの化成品の原料にしてしまおうということです。
文字で書くほど簡単ではありませんが、先生が目指しているのが「利益創出型バイオマスリファイナリーシステム」です。
専門的な説明は省かせていただきますが、間伐材や菌床の廃材などは高圧の水蒸気で爆砕?脱水したあと、全部の成分を分解抽出することにより有効利用します。
そのためのオリジナルの「水蒸気爆砕を用いた有用製品生産システム」をメーカーとともに開発しました。原理はポップコーンやポン菓子と同じようなもので、これにより木質中の成分を分解する前処理が格段に早くなります。
木材などの生物資源(バイオマス)は、最終的には電気機器の基盤に使われる樹脂やナノファイバー、キシリトールや医薬品、エ タノールなどの高付加価値物質へと変化していきます。今まで廃棄されていたものが、捨てるところがない素材になるのです。
「石油の発掘量は確実に少なくなっていますが、無尽蔵にあればCO2も無限に増えていくので、ある意味地球の環境のためには良いことです。その分、バイオマスの研究はエネルギー問題だけでなく、私たちの生活のあらゆる場面で使える製品を生み出せます」
この分野の研究は他にもありますが、中村先生の研究には、バイオマスをいかに効率的に高付加価値の製品を作り出せるか、ということに大きな期待が寄せられています。
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- 大学院ソシオテクノサイエンス研究部
- ライフシステム部門 教授
[取材] 161号(平成27年10月号より)