最先端研究探訪 (とくtalk157号 平成26年10月号より)

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「自立」ではなく「自律」型のまちづくりをめざして
常に変化する地域に沿った支援を

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オーラルヒストリー調査の様子

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共著『まちづくりオーラル?ヒストリー「役に立つ過去」を活かし、「懐かしい未来」を描く』

地方の過疎化問題から災害によるダメージの回復、衰退する既存商店街の立て直しなど、現在、様々な形での地域の活性化、復興、まちづくり、等の取り組みがあります。

田口先生は早稲田大学で建築学科(1999年卒業)を専攻し、建築物単体ではなく、都市をハードとソフトの両面から、トータル的にデザインすることをめざす中で、小田原市の政策総合研究所の特定研究員や早稲田大学の都市?地域研究所客員助手を経て、さらに広く深く、地域の活性化にも関わるようになりました。

2006年には新潟工科大学建築学科の准教授として赴任。半年後の新潟県中越沖地震(2007年7月)で崩壊した町に立ち、市民とともに復興ビジョンを策定し、町の復興に携わりました。現在はそのビジョンをベースに復興まちづくり事業を進めています。
「商店街の皆さんの中にどっぷりとつかって取り組みましたが、最初は若造扱いされて、話を聞いてもらえなかったこともありました。まちづくりのめざすものは何だ、活性化って何だ、と悩みながら活動する中で、行き着いたのは結局『人』の問題だと言うことです」

新潟に続いて、3.11の東日本大震災の被災地も見ながら、その年の10月に徳島大学に赴任した先生は、この号が出るときにちょうど3年目となります。今では行政からアドバイスを請われたり、相談される立場にもなってきました。


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三好市でのまちづくり調査の様子

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まちづくりは「人」づくりから

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地域づくりコーディネートゲーム

ここ数年、日本の政策にも変化が出てきたと言います。インフラやハード面中心の支援から、人を送り込もうという考えになってゆき、これに先生は「人的支援」という言葉を使い始めました。
「地域おこし協力隊という名称をよく聞くようになりましたが、現在このメンバーが全国に約1000名ほどいて、この前安倍総理が3年で3000名規模にすると言っています。しかし人を増やせばよいと言うことではありません。ちゃんとしたビジョンを持った地域に、優秀な人材を入れることが大事です。人が多くなればそれだけ『人を育てる』ということが重要になってきます」

過疎地に都会の人が移住したり、災害地にボランティアが入る場合、報道されるのは感動的な場面になりがちですが、そこで先祖代々暮らしている人と、新しくやってきた人には微妙なズレがあり、時にはそれがストレスのように蓄積してしまうこともあるのです。相互に「受け入れる」という寛容性や理解する努力がなければ、新しい時代は拓けていきません。
「地域づくりは、手順を踏んで時間をかけてやっていかなければならない」と、先生。人が移るときでも、地域になじむには10年以上はかかるでしょう。しかしこれは地域側も支援する人も、移住する場合も、それぞれがお互いに相手のことを考えて努力することが最も大切になってきます。

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地域遺伝子が創る懐かしい未来

ここに先生がキーワードとする指針があります。それは「地域遺伝子」です。この言葉は、師匠と仰ぐ早稲田大学創造理工学部の後藤春彦先生の著書「まちづくり批評:愛知県足助町の地域遺伝子を読む」で語られ、先生はこの考え方を受け継ぎながら、ご自分の経験に基づく独自の方法も模索しています。

私たちが今見ている「景観」は、地域の文化や風習など古くからの人々の暮らしの蓄積から創られたものです。

ここにさらに新しい文化や風習が積み重ねられて創りあげられていくことにより生まれるもの。これを、新しい中にも懐かしさを感じるような「懐かしい未来」という言葉で表現しています。

そうしたものをきちんと見据えて理解した上で、未来への構想を創っていくことが大切になります。
「少し前にはどこの町でも『歴史と文化の街づくり』みたいな同じようなフレーズが流行りましたが、ここで言う歴史や文化は、有名な歴史物語や文化遺産のような、庶民とはかけ離れたもが多かったんですね」

先生たちが続けているのが「まちづくりオーラル?ヒストリー」です。これは地域の人たちの人生の記憶をひたすら聞いて記録していく中で、それこそ遺伝子のらせん構造のように交差する、人々の地域における関わりを紐解き、生活史のようなものを編纂していこうという終わりなきフィールドワークです。後藤先生、佐久間康富先生(現 大阪市立大学 講師)と田口先生の共著による『まちづくりオーラル?ヒストリー「役に立つ過去」を活かし、「懐かしい未来」を描く』が出版されています。
「まちづくりのめざすところが議論されていないんじゃないでしょうか。活性化って言うけど、活性化ってなんだろうということも語られていません。押しつけがましい地域づくりや地域おこしになってはいけないと思うんですね」先生は「攻めと守り」が大切だと言います。
「活性化には、例えば6次産業のように新しいものを入れて変えていこうという攻めも大事ですが、地域では日々の生活も危ういという現実があり、守らなければならないものをきちんとしないままに攻めていくと、本当の意味での地域おこしにはならないと思います」

少子化や過疎化、大災害など、どんな理由があるにしろ、地域の持つDNAを考えた地域おこしや地域づくりに立たなければ、小さなこの国が、本当の意味で他国を理解して交流していく国際化社会を、生きていけない時代になっているのかもしれません。

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地域おこし協力隊の人材育成

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復興ビジョンづくりの様子


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?田口 太郎( たぐち たろう )のプロフィール
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  • 大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス研究部
  • 創生科学研究部門 准教授

[取材] 157号(平成26年10月号より)

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