大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体情報薬科学部門
分子情報薬学講座 薬品分析学分野
田中 秀治 [教授] たなか ひでじ
竹内 政樹 [准教授] たけうち まさき
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流れを利用した自動分析法の創案と環境分析への応用
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今回ご紹介する田中先生と竹内先生の専門は分析化学です。分析化学は、興味の対象となる物(試料)に含まれる目的成分を他成分と区別して認識しその情報(濃度や状態など)を得るための原理や方法を探究する分野です。自然科学、特に実験科学では「分析」は必須のプロセスです。したがって、分析化学は自然科学全体を支えている重要な学問であると言えます。
両先生の主テーマは流体(液体、気体)の流れを利用するフロー分析法です。これは、試料の導入、試薬との混合や反応、検出を、一連の流れの中で行う自動分析法です。手操作を伴う通常の分析法、すなわち試料や試薬を試験管に入れて反応させ、分析装置へと移して測定するといった方法に比べると、効率、精度、経済性などの点で断然優れています。多数の、そしてしばしば危険な試料を扱う環境分析や臨床分析に適した分析法です。
最もよく知られているフロー分析法は、フローインジェクション分析法(FIA)です。田中先生も1990年代はFIAを研究していました。フロー系内で活性の高い試薬を電解発生させる方法を考案し、有機水銀や有機リンの定量へと応用しました。しかしFIA研究者は多く、そういう研究を続けることに喜びを見いだせなくなったそうです。
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そんな折、テキサス工科大学のPurnendu K. Dasgupta 先生(インド出身)の独創的な発想と市販装置に頼らない技術に感銘を受け、学会誌で紹介するとともに、1996年、福岡での講演の際に会いに行ったそうです。これが縁で同大学に留学し、そこで開発したのが「フィードバック制御フローレイショメトリー」です。これは、2液をさまざまな流量比で合流させ、この比と検出信号との関係より目的情報を得る分析法です。信号を解析し、必要最小限の領域で流量比走査を繰り返すことで、効率化を達成します。
帰国後、この研究を発展させ、薬物の分配係数や解離定数の迅速測定も行いました。最も成功したのは滴定への応用でしょう。滴定は重要な分析法ですが、操作が煩雑で時間を要します。田中先生は、コンピュータ制御による完全自動化により、1分間に最高34滴定という前例のない効率を実現しました。
2008年発表の「振幅変調多重化フロー分析法」は、通信工学的な概念を導入した分析法です。流量変化による情報の変調、複数試料の合流による情報多重化、分析信号の周波数解析(高速フーリエ変換など)により、シンプルなシステムで多成分同時定量が行えます。制御?計測?解析プログラムの作成やシステムの構築も田中先生自身で行っているユニークで独創性の高い分析法です。最近では、希少資源元素の定量にも応用しています。
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学生時代、田中先生は物理化学を専攻していました。指導教官の転出や停年による教室の変遷の中で、博士課程3年で中退して徳島に渡ってきたそうです。以降も教授の停年や退職で、37歳の時には5人目の教授に仕えることになり、大樹の陰で安心して研究できる人生は歩めなかったとのこと。そういった背景が、自分を温かく受け入れてくれた「分析化学」への想い、薬学領域では珍しく、応用よりも理工系的基礎分析、バイオよりも環境志向という独自路線につながっていると思われます。
「私の研究は最先端と言うより、異端です」と、田中先生。「最先端」というと、注目を集めているテーマについて、人?物?金を注ぎ込み、ライバルとしのぎを削っているイメージを思い浮かべる人も多いでしょう。同先生は「流行っている」「お金になる」ということにはあまり関心がなく、「分析化学者は分析装置のユーザーになり下がってはならない。新しい分析法の開拓者でなければならない」という信念のもと、オリジナリティーを重視して研究を進めています。
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そんな田中先生と共に研究に励んでいるのが竹内政樹先生です。田中先生の話では「竹内が米国留学する際にメールで助言しただけなのに、毎年欠かさずクリスマスカードを送ってきた。何て律儀な若者だ」と興味を持ったとのこと。面識はなかったものの、竹内先生を知る人は皆その人柄を絶賛されるので、准教授への応募をお願いしたそうです。竹内先生も、Dasgupta 先生から「田中は、私のもとを訪れた多くの日本人の中で最も優れた3人の一人」(買いかぶりすぎ(田中先生談))と言われ、5年間の米国滞在からの帰国を決意したそうです。以降、二人は同じ分野( フロー分析) で同じ志向(環境分析)のもと、お互いの発想やテーマを尊重しつつ、共同で研究を進めています。
竹内先生の専門は大気分析で、大気中のガス?微粒子や有害物質の分析をしています。水質基準の要検討項目に最近追加された過塩素酸のような微量の環境汚染物質をフロー系の中で濃縮し、イオンクロマトグラフィーなどによって定量しています。また、酸性雨や湖沼の酸性化を引き起こす酸性ガス成分をオンラインで測定できるシステムの開発にも力を注いでいます。これらのシステムは実際に富士山などのフィールドで検証され、その実用化が期待されています。
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田中先生の趣味はクサガメの飼育とオートバイ。幼い頃に淀川近くの低湿地に住んでいたため、カメには親しみを感じるとのこと。自動二輪免許は、大学院生のとき、心の健康のために趣味を持つ必要があると感じて取得したそうです。竹内先生の趣味はベランダ菜園とアウトドア。後者の経験は、大気分析などのフィールドワークにも役立っています。
田中先生は31歳で教壇に立ち、医?工?医療短大?鳴教大の非常勤講師も務めるなど、教育にも力を注いできました。講義は板書主義で、情報量を絞り、学問の流れ?雰囲気を伝えるように努めています。教員になって4年の竹内先生は、専門的な知識を身近な現象と関連づけて説明すると共に、学生が授業に積極的に参加できる雰囲気作りを心がけ、興味と理解を促しています。
学生さんに贈るメッセージをいただきました。
田中先生:「人生はどう展開するかわからない。不運なときは卑屈にならず、幸運な時は驕らず、謙虚かつ誠実に生きること」竹内先生:「一日、一瞬を大切に、今できることを精一杯やってほしい」
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- 大阪府出身
- 1961年 2月 大阪府高槻市生まれ
- 1984年 3月 京都大学薬学部卒業
- 1988年 6月 同大学大学院薬学研究科
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博士後期課程中退
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徳島大学薬学部 助手
- 1990年 7月 京都大学薬学博士
- 1992年11月 徳島大学薬学部 助教授
- 1996年 9月 日本分析化学会奨励賞
- 1999年 6月 テキサス工科大学 客員研究員
- 2000年11月 フローインジェクション分析進歩賞
- 2006年 4月 徳島大学大学院HBS研究部 教授
- 2008年 9月 フローインジェクション分析学術賞
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- 埼玉県出身
- 1973年12月 大阪府枚方市生まれ
- 1997年 3月 神奈川大学工学部卒業
- 2002年 3月 同大学大学院工学研究科
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博士後期課程修了
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博士(工学)、神奈川大学
- 2002年 4月 神奈川大学 博士研究員
- 2002年10月 テキサス工科大学 博士研究員
- 2007年 1月 テキサス大学アーリントン校 博士研究員
- 2007年 7月 徳島大学大学院HBS研究部 准教授
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[取材] 145号(平成23年10月号より)