最先端研究探訪 (とくtalk134号 平成21年1月号より)

トップ記事最先端研究探訪 (とくtalk134号 平成21年1月号より)
asaoka.jpg

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体材料工学分野
淺岡 憲三 あさおか けんぞう

?

先進材料工学技術を医療の現場へ

?

先端工学技術が医学の世界を開く

医療の現場で治療に使われるものは大きく、

1.直接身体に作用する薬品

2.診断機器や治療を助ける様々な機器類

3.身体に直接埋め込まれる材料、人工臓器

の三つに分類されます。

淺岡先生は3番目のいわゆる医療デバイス、バイオマテリアルと呼ばれる分野の第一人者として研究に取り組んでいます。

元々、大学で金属加工の塑性力学を学んだ先生は、将来医療分野での金属やセラミック素材の応用が必要になることに着目。指導を受けた先生との縁もあって、歯科の材料の研究に入りました。その後開設されたばかりの徳大歯学部に誘われて徳島にやってきました。

バイオマテリアルの研究は、対象は変わりつつも常にその時代の最先端の研究分野と言えます。そもそもバイオマテリアルが注目され始めたのは、70年代、ベトナム戦争で負傷した兵士の治療に、薬だけでなく人工骨、人工関節といった「人工材料で身体を治す」という需要が多くなったからだと言われています。

したがって医療用デバイスは、今でもほとんどの素材や実用機器が欧米からの輸入品です。

?

バイオマテリアルの新しい未来へ

淺岡先生は約1年間、アメリカのNIST(国立標準技術研究所 National Institute of Standards and Technology=度量衡やあらゆる機器、素材の規格標準化?標準物質を定める機関)で研究員として最先端の歯科材料について学びました。その時、今までの歯科素材を研究する時代は終わり、これからはバイオマテリアルの時代になると感じたそうです。淺岡先生は約1年間、アメリカのNIST(国立標準技術研究所National Institute of Standards and Technology=度量衡やあらゆる機器、素材の規格標準化?標準物質を定める機関)で研究員として最先端の歯科材料について学びました。その時、今までの歯科素材を研究する時代は終わり、これからはバイオマテリアルの時代になると感じたそうです。

医療材料?機器の安全基準には次のような四つのカテゴリがあります。
1.ガーゼや手術用のグローブ(手袋)のように使い捨てされるもの
2.義歯の合金のように生命の危険に直結する可能性の低いもの
3.人工骨やインプラントのように、不具合が生体(身体)の安全に対し影響が大きいもの
4.ペースメーカーやステント(血管内に埋め込む金属の管)など体内で使われる、直接生命に関わるもの

淺岡先生は、歯科材料にこだわらず、「3」、「4」のカテゴリの新たな素材の研究をしています。その研究は細胞レベル以下の大きさを対象とするナノテクノロジーの領域に入ってきました。例えば、治療薬を含んで体内の患部で生体に作用する素材です。そのひとつが、丈夫でさびないために最近あらゆる分野で用いられるようになったチタン合金です。ただチタンはそのままでは目的とする医療材料としては適さないため、チタンの粉を固めて多孔質のチタン合金を作るなど、医学部の領域を超えた、先生がかつて専門とされた知識が生かされた研究です。またニッケルとチタンの合金である形状記憶合金などを使った、医療の分野では今までにない素材の生体反応の研究が進められています。
「二十歳の頃考えていたこと、長い間大学にいて知識は増えましたが、根源の発想は変わりませんね。あの頃の夢を失わずに、楽しみながら研究を続けたいですね。そして医療の発展に貢献していきたいです。」
と、常に挑戦し続ける淺岡先生の意欲に、新たな医学の未来が開けていくことでしょう。

asaoka2.jpg

1: バイオマテリアルの世界へ導いてくれたNISTのJA Tesk博士と(1991年徳島にて)
2: NISTのJA Tesk博士を中心に研究の仲間達(1988年京都での世界バイオマテリアル会議にて)
3: 留学先のNISTの研究室にて、当時38才(1985年)

?

淺岡 憲三氏のプロフィール

asaoka3.jpg

  • 1947年 東京都生まれ
  • 1972年 横浜国立大学工学部卒業
    東京医科歯科大学医用器材研究所助手
  • 1978年 徳島大学歯学部講師
  • 1980年 同 助教授
  • 1981年 工学博士(東京工業大学)
  • 1985年 NIST客員研究員
  • 1993年 徳島大学歯学部教授
  • 2002年 Liden大学客員教授
  • 2003年 徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授

[取材] 134号(平成21年1月号より)

カテゴリー

閲覧履歴