最先端研究探訪 (とくtalk142号 平成23年1月号より)

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大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス(SAS)研究部 環境共生科学分野
真壁 和裕 [教授] まかべ かずひろ
渡部 稔 [准教授]わたなべ みのる

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生命の神秘にアプローチする研究
小分子R N A 研究の最先端に

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卵はどのようにして個体になるのか

今回は「研究室へようこそ」の ページでもRNA(リボ核酸)について紹介しています。医学部では治療や製薬といったことが目的に研究されていますが、SAS研究部では生命科学の観点から、生命そのもののメカニズムの研究が進められています。

よく「鶏が先か卵が先か」と言われますが、どちらにせよ卵は鶏になり、鶏は卵を産むわけです。この生命の不思議は、近年、遺伝子の研究により仮定から実証へと急激な進歩をしています。
現在、ヒトゲノム(人間の遺伝子情報)は約30億もの塩基からなる配列(構造)に由来し、生体の働きを司るタンパク質に対して、どのような情報が送られ ているかがほぼ解析されています。DNA(遺伝子)の設計図(情報)はメッセンジャーRNAにコピーされ、タンパク質の情報として翻訳され、それが最終的 に生物の姿や形、形状などを決定していきます。

しかしながら、これらの流れに乗らない小分子RNAというものが数千種以上もあり、これらがメッセンジャーRNAに何らかの影響を与え、例えば身長や体 重、個々の特性をコントロールしているのではないかということがわかり、さらに細分化されています。さらに、この現象を応用すれば、細胞の遺伝子の働きを 人為的に制御できるので、複雑な遺伝子の働きのネットワークを明らかにする上でも、とても有用なのだそうです。

真壁先生と渡部先生は、一つの細胞である卵が発生?分化して個体を形成していく上で、これらの小分子RNAがどのように影響を与えているのかという研究 に取り組んでいます。この過程を詳しく調べることで、例えばiPS細胞からさまざまな組織や器官を作り出すときにどうすればよいかなどが分かってくるはず だと考えられるのです。二人の研究内容は厳密には違いがありますが、共通点が多いため、独立のグループでありながらも研究器材や試薬などを共有しながら、 研究を進めています。

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ホヤ屋さんとカエル屋さん

二人の研究室の違いのひとつは、実験に使用する生物にあります。

真壁先生はホヤ(海鞘?脊索動物門尾索動物亜門ホヤ綱に属する海産動物の総称)を使っています。一般的にはなじみがない生物ですが、海の中には広く棲息し、発生学の材料として古くから世界中で用いられています。先生は京都大学の研究室の時代からこのホヤを使って研究していました。

海の中ではイソギンチャクのように岩にくっついていたりしますが、受精卵が孵化してオタマジャクシ型の幼生に発生することから、なんと人間と同じ脊索動物の仲間で、私たちの祖先に近い動物だと言われています。したがって、ホヤを研究することで、人間の遺伝子の進化やしくみが分かるのだそうです。

先生は年に一度、自ら東北地方まで採取に出かけます。このときは他の大学の研究者も集まり、みんなで協力して集めます。そのためにダイバーの資格も持っています。また陶芸にも興味がありますが、作品はホヤの焼き物であるほどです。

渡部先生が使うのはアフリカツメガエル(ピパ科ゼノパス属のカエルの一種)です。一般的なカエルは年に一度しか卵を産まないのですが、このカエルはホルモン注射により排卵を誘発することができ、受精卵を常時入手することが可能です。また一生の間ずっと水中で生活し、エサも人工飼料が使えるので飼育が楽な点でも実験に適しています。
ハーバード大学でガンや疾病に関わる遺伝子の研究をしていたときからカエルを使ってたそうです。渡部先生の研究室にはカエルのキャラクターのグッズが数多く並んでいます。

カエルは養殖業者から箱詰めにされて宅配便で届けられます(写真のように生きたカエルがいっぱい詰まった荷物は、苦手な人にはちょっとショックかもしれませんね)。アフリカツメガエルは世界標準のモデル動物なので、日本でも多くの研究者が使っています。日本には「X C I J (Xenopus Community in Japan)」というアフリカツメガエル研究者の団体があり、毎年「日本ツメガエル研究集会」が開催されています。2年前には渡部先生がオーガナイザーとなって徳島で開かれました。

実験材料ではありますが、ホヤもカエルも長い付き合いなので、どうやら二人ともかなりの思い入れがあるようです。いろいろな動物を実験に使う生命科学の世界では、その動物を使う研究者を動物名で「○○屋さん」と呼ぶ習慣があるそうです。さしずめ、真壁先生は「ホヤ屋さん」、渡部先生は「カエル屋さん」といったところでしょうか。

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生命の秘密は巨大なジグソーパズルのようなもの

遺伝子と小分子RNAの世界を真壁先生は、学校のクラスに例えてくれました。例えば生徒それぞれに個性や役割があり、関係性があります。リーダー的なA君が休むことによりクラスのまとまりがなくなったり、給食係のB君が休めば他の誰かが手伝わなければなりません。同じようにRNA一つ一つのちょっとしたことで、身体のどこかに影響が出てきます。そのメカニズムはまだ全容が解明されているとは言えません。しかしながら研究は着実に成果を上げているのです。
「生物というのはいかに精密にできているのか。また生命体の各部位を正しく作っていくことが難しいことか、このメカニズムに挑んで全体像を解明していくことが最終の目標です」と、真壁先生。

渡部先生は、夏休みのオープンキャンパスや高大連携の体験実習などでも、高校生が生物学に興味が持てるような授業を行っているそうです。
「生命のメカニズムは何十億万ものピースがあるジグソーパズルのようなものです。次の世代にも伝えながら解明していかなければなりません。」

こうした研究が進めば医療の分野にも大きな貢献となり、RNAをコントロールして病気を予防することも、難病を治療する方法もさらに進化していくことでしょう。

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真壁 和裕のプロフィール

  • 埼玉県出身manabe-watanabe-05.jpg
  • 1984 年 3 月 京都大学理学部卒業
  • 1990 年 3 月 博士( 理学), 京都大学
  • 1990 年 4 月 日本学術振興会特別研究員(PD)
  • 1992 年 4 月 日本学術振興会海外特別研究員 カリフォルニア工科大学リサーチフェロー
  • 1994 年 11 月 京都大学理学部 助手
  • 1995 年 4 月 京都大学大学院理学研究科 助手
  • 2003 年 10 月 徳島大学総合科学部 助教授
  • 2005 年 4 月 徳島大学総合科学部 教授
  • 2009 年 4 月 徳島大学大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス研究部 教授

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渡部 稔のプロフィール

  • 愛媛県出身manabe-watanabe-06.jpg
  • 1987 年 3 月 九州大学理学部生物学科卒業
  • 1992 年 3 月 博士( 理学),九州大学
  • 1992 年 4 月 日本学術振興会特別研究員(PD)
  • 1993 年 4 月 米国フレッドハッチンソン癌研究所 博士研究員
  • 1996 年 9 月 米国ハーバード大学医学部 博士研究員
  • 2001 年 3 月 東京慈恵会医科大学医学部 助手
  • 2002 年 3 月 岐阜大学医学部 助手
  • 2002 年 4 月 岐阜大学大学院医学研究科 助手
  • 2004 年 4 月 徳島大学総合科学部 助教授
  • 2007 年 4 月 徳島大学総合科学部 准教授
  • 2009 年 4 月 徳島大学大学院ソシオ?アーツ?アンド?サイエンス研究部 准教授

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[取材] 142号(平成23年1月号より)

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